壁に向かって話し続ける

オタク女の備忘録

『第三夫人と髪飾り』『あなたの名前を呼べたなら』感想

こんにちは。いろいろバタバタしてて観てから時間が経ってしまったのですが、先々週観た『第三夫人と髪飾り』『あなたの名前を呼べたなら』の感想を……。二本立てで、『第三夫人〜』の方目当てだったけど、二本とも良かった!

以下感想です。

 

 

 

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第三夫人と髪飾り


・あの終わり方はなんなんだ……メイ、子供殺しちゃったんか?妹の断髪はどういう意味?

フェミニズム的な映画だとは思うけどあまりそれだけに限定したくないと思った。語ること、表象することで意味の範囲がかなり狭まってしまう映画な気がする。

・とにかく映像が美しくていわゆる「エキゾチック」な感じに仕上がっていて、物語の中でセリフは最小限、静謐な暮らしの様子が描かれている。でも静謐といっても優しく柔らかなだけの静謐ではない。人間として生きることはそれだけではないので。

・女たちの側に寄り添った映画なので、男である家の主人はほぼ閨のシーンしか出てこない。衝撃的。

・第二夫人の娘の初潮、その子が嫁に行く/義息子に嫁が来る、メイの初夜と妊娠、という生物的な女の一生が作中で進行していく。

・関係を持っていた第二婦人のことを忘れられない第一婦人の息子が嫁を拒み、それで嫁が首を吊ってしまうという悲劇。息子か「話したこともない女と結婚できるか!」って泣いていたシーン、家父長制は男性側にとってもアレよな……と実感してキツかった。村の小作人?が不義をして咎を受けるシーンが挿入されていたのもよかった。女は寺に入れられて男は鞭で打たれる。う〜ん……

・お祭りで第二夫人の娘が「生まれ変わったら男になる。仏さまに祈ったから叶う」と言ってたのも、幼い子供でもそう思うのか……となんとも言えない気持ちになった。

・首を吊って死ぬ嫁と、死にかけながら生まれてくる子供の対比。気を失ったメイの見た夢?に出てくる川と洞窟。命は洞窟から来て洞窟に帰るというのはそういう信仰なのかな?

・家父長制地獄のかたわらにひっそりと存在するシスターフッド。産褥で気を失う主人公を、複数回流産してる第一婦人が無事助けるシーンが象徴的。男児を産むことでしか認められない、弱い立場の女性たちが支え合い連帯して生きていく姿、いいな〜となった。

・全体として、幻想と美しい情景につつまれた最悪のムラ社会という感じ。

『第三夫人と髪飾り』が舞台となったベトナムで上映中止に。それでも監督は「絶望していない」 | ハフポスト

この記事読んで地獄みが増してしまった。ただ監督の聡明さが希望か。

 

 

 

 

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あなたの名前を呼べたなら


・ハッピーエンドだと思って映画見てたのでここで終わるの!?になった。そんでタイトルをちゃんと確認してやっと得心がいった。「雇い主とメイド」ではなく「個人と個人」として付き合うことができるようになったので……って形でハッピーエンドが示唆されてるのか。

・ラトナ、気を遣える(=メイドとして仕事ができる)し、ちょっと陰があるし、向上心と自立心が旺盛だしいい主人公だった。かなり感情移入できたしイライラせず見れた。第三夫人〜の主人公は観客に対する説明役・案内役という側面が強かったようにも思うし……

あといい具合にパーソナリティを雇い主に開示してて勉強になった。作中「優しい」とも評されてたけど共感能力があるんだよな多分。

・そんでアシュヴィンも最初からいい人っぽさが出てたし、、ラトナの立場に思い至らないのは育ち故の無知なのか、それとも男性である自分が持っている暴力性に気付いていないのか。

・ラトナの「あなたの情婦はごめんです」、分かる〜ッ!になった。相手のことは好きだけどここで付き合ってしまったら自分の立場が不利になってしまう、っていう彼女の焦りがマジでよくわかってア〜〜……になってた。

・女だし未亡人だし(ラトナの出身の村では未亡人になってしまうと「人生終わり」ということが語られている)、メイドだし田舎者で資産はないし、というn重苦のラトナと、アメリカ帰りの金持ちの息子であるアシュヴィンがくっついたら絶対バッドエンドだったと思うのでこの終わり方はよく考えられてるなとしみじみ。こういうシンデレラストーリーってどうしても女側は 若さ・美しさ/心根の優しさ、しか男側に差し出せるものがないパターンが一般的なので、アシュヴィンも「若い」「イケメン」であり、加えて「優しい」というのが平等でよかった。そして恋よりもキャリアを優先するヒロインというのも新しい時代のシンデレラストーリーの形だなと。

・バイクに乗って布の買い出しに行くシーン、いきなりインド映画らしいゴキゲンなミュージックが流れてきてちょっと面白かった。希望だけでなくリアリティもあるいい映画でした。

 

 

 

 

 

 

二作品とも第三世界出身の女性監督の映画で、自分の出身国の問題と女性の置かれている困難さが主題という点では似ていた。でもアプローチはそれぞれ異なっていて映画として面白かったし、どちらも映像が綺麗でエモ〜になった。インド行ってみたいねえ。アシュヴィンの高級マンションが、いかにもインド的な雑多でこみごみした街にあったのが面白かった。高級住宅街とかないんかな?

 

また何か面白い映画あったら書きたいけど、それよりパライソが先ですね……。葵咲本紀、歌合と感想を書いていないのは、書きたいことと配慮したいことが多すぎて結局身動きが取れなくなっただけなので、飽きたとかでは全然ないです。パライソではなるべく「書いて出し」を実行したい……。

では。