壁に向かって話し続ける

オタク女の備忘録

映画『パラサイト 半地下の家族』感想

 

こんにちは。最近サボってたので本日はアウトプットをしていきたいと思います。

さて、今回はタイトルにもあるように映画『パラサイト』について書こうと思います。私などが言及するまでもなく世界中で大絶賛されている、アレです。

もともと一昨年あたりにポスターが発表された時から気になっていて、昨年韓国で公開された途端に高評価が怒涛の如く流れてきたので、個人的絶対観たいリストに入れていました。それをやっと観てきたんですけど……

メ〜ッチャ良かった!!!

 

ここからは完全に個人の見解なんですけど、私は活字テクストに慣れていてそちらがホームだと思っているので、映画は好きではあったけど小説には劣るメディアという認識をしていた。

映画って時間がある程度決まってるから小説と比べると登場人物に感情移入できないし、叙述トリックも使えないし、派手なアクションとかにも別に惹かれないので、絵画的な画面や美しい映像など、視覚情報を入れられることがアドバンテージだという感じ。

が、本作を観てから、その認識は間違っていたのかもしれない……と思っている。

以下ネタバレありの感想です。公開日とっくに過ぎてるので大丈夫だとは思うけど、もしまだ観ていないのにこのページを開いている人がいたらブラウザバックを。監督もネタバレ厳禁と言ってたので。

 

 

 

 

 

 

 

 

よかったポイントその①

キャラクターのバックグラウンドの作りこみが過不足なく緻密。

 

例えば、冒頭の主人公兄妹が「上のおばさんwifiにパスワード設定しちゃった〜」って家の中で電波が入る場所を探すシーンだけで、この家がどんな環境に置かれているのかふわっとわかる。スマホはあるのにsimもwifiもないって人、私は見たことがないので、その時点で異質のものに対する軽い恐怖を感じた。

そのシーンの流れで、トイレの付近なら近くのカフェの電波が入る!となってトイレが映るんだけど、部屋の中に階段があってその一番上にトイレが鎮座しているという異様なレイアウトで。半地下の家だから水圧の関係で高いところにあるらしいけど、座ったら天井に頭つきそうな感じで、それもかなりインパクト強かった。

 

あとは主人公一家の父親と、例の男が経営に失敗した「台湾カステラ」。

韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(『寄生虫』)をより楽しむための韓国文化キーワード7つ(ネタバレなし) | エンタメ総合 | 韓国文化と生活|韓国旅行「コネスト」www.konest.com

この予備知識集を見てから鑑賞したので知ってたけど、これを知ってるのと知ってないのとではかなり印象が変わったのでは。

つまり、お父さんもあの男も、1997年の通貨危機で職を失ったあと、2016年の台湾カステラのブームでお店を開いて、メディアの誤認報道でそのお店も畳んで、っていう同じ流れを経てきている、ほぼ同じ立場の人ってこと。

 

その他、北との核戦争に備えたシェルターとか害虫駆除の消毒とか(ソウルが舞台らしいけど、東京のいわゆる治安が良くないとされている地域でもあんな路上消毒なんて今しないよね?)も日本とあまりにも違くて、韓国の環境とか風俗って知っているようで全然知らなかったんだと思った。文化を観る映画としてもかなり興味深く観られた。

 

 

良かったポイントその②

含意的な画面構成と、徹底した上下の対比。

 

半地下の部屋に住む主人公一家・地上の家に住む雇い主一家・完全に地下のシェルターに住む元家政婦夫妻という、物理的な高低差によって社会的地位の高低を描いていることは誰にでも理解できるようになっていた。が、それだけじゃなくて、同じ場所に三家族がいた大雨の夜のシーンなんかはかなり示唆的だった。

雇い主一家はベッドの上やソファの上にいる一方で、主人公家族はローテーブルの下やベッドの下にかくれ、主人公家族にそのポストを奪われた元家政婦夫妻は地下に押し込められる。

この辺りのシーンはすごく示唆的だった。社会で堂々と過ごせる上流階級とコソコソと隠れる下層中流、そもそも人に見られもしない最下層。

シェルターの夫婦の部屋では避妊具が映され、ソファの上では雇い主夫婦が乳繰り合いを始める。けど、こうやって夫婦が性接触できるのは2人が同じ階層にいることが前提であって、階層の違う主人公一家の長男と雇い主の娘は同じベッドの上下に分断されて接触し得ないのだ。

雇い主邸から脱出した3人が長い坂を下って、長い階段を降りて降りて、自分たちの家の近所まで来たと思ったら浸水しているのを見た時に「あ〜これはこういう映画なんだ」と悟ったというか。不幸の象徴のように下に下にと流れていく水の表象がすごくイヤだった。

 

そして、その後の場面からは家族単位の対比ではなく、社会における階層ごとに対比がされている。

浸水した下の街に住んでいる人たちが体育館で一夜を過ごすこと/息子が庭にテントを張って一晩過ごすこと

避難物資の衣服を揉めながら分け合う人々/ウォークインクローゼットから服を選ぶ奥さん

炊き出し?に長蛇の列をなす被災者/優雅にホームパーティーで料理を楽しむハイソサエティの訪問者たち

災害という人々が平等に被るはずのものでさえ、社会的な地位によって回避できるということがかなり悲しかった。災害大国に住んでる人間としてはここが一番ショッキングだったかもしれない。

 

 

良かったポイントその③

いくつかの表象で観客に解釈の余地を残していること。

 

例えば「山水景石」。大学生でステータスのある友人から長男くんに渡ってきたもので、お母さん的には「食べものがよかった」もので、長男くんには重いもので、浸水した家から唯一持ち出して「こいつが僕から離れない」と言ったもの。地下シェルターの夫婦をこれで殴り殺そうと思ったら逆に殴られて後遺症が残ってしまったもの。

これって、「上の階層に上がれるチャンス」のメタファーとして現れたものが、「自分たちの生活のために前任の家政婦の生活を奪った」ことが可視化されてから「犯した罪の責任」に変化してしまったんじゃないかと私は思った。

チャンスはあくまでチャンスでしかないので確実に食べていけるわけではない=「食べものがよかった」のも分かるし、上の階層に行くにはそれまでの下層民としての自己を捨てることも必要だから「重い」=負担になるのも分かる。あの夜の事件のあと、浸水した家から唯一持ち出して「離れない」と言ったのも、「責任を取る」とこれを持ってシェルターに潜ったのも、チャンスから罪に変容してしまったからであると考えると合点がいく。石を落としてしまったのは、罪が彼一人には持ち切れないくらい重大なものだったからではないかと思う。仕事を奪うことは食い扶持を奪うことで、夫婦2人の命を奪うことにつながるからだ。彼は自分が殴られることで「石を受け取った」ことの責任を果たした。

石で長男が殴られて昏倒したことと、庭で例の男によって行われた殺傷は根本が異なるものであると解釈した。庭での殺傷は主人公一家が悪いというよりはあの男の罪であり、でもあの男は地下生活で頭が少しおかしくなっていた上に失うものが既に何もなかったため、自分が死ぬという罰と認識しなくていいような罰だけで終わる。でも、お父さんの殺人はそうではない。彼には家族や家といった失うものがまだあったし、どこにも起因しない独立した彼の罪だからだ。もちろん雇い主の社長が刺されたのも、彼の他者への共感能力の欠如が積み重なって起きた結果であるといえると思う。

 

「匂い」の表象に関しても、映画というメディアでよくこれを設定したな〜と思う。「匂い」はつまり、その階層にいる人特有の言葉遣いや仕草といった、文化の差異すべてを集約した概念なんだと思う。半地下のカビ臭さを連想させるような「匂い」を表象として設定したのはシンプルにすごい。

 

良かったポイントその④

キャラ造形がリアルで丁寧。

例えば、長男くんは友達の恋人のはずだった女子高生の家庭教師を頼まれたのに、友達に牽制されたことを忘れたかのように秒でイチャイチャしはじめる。

これ、見た感じだと女子高生から誘っていたので、彼女は前の家庭教師にも同じことをしたんだろうな〜と想像がつく。パーティーの時の部屋でのやりとりからも、この子、誰かの意識を自分に向けておかないと不安になるタイプっぽい……ということが分かる。

これは単にこの子がそういう性格なだけかもしれないけど、弟にばかり関心のある両親に反発している様子が度々見られることから、家庭に不満があって恋愛に依存している可能性も十分にある。

 

こんな感じで、ストーリーの本筋には全く関係ない人物造形も、その人の人生がある程度感じ取れるような一貫性がある。

この映画には三種類の社会階層にいる人が出てくるわけだけど、どの立場の人にも観客が感情移入できるように・他者化しないようにされている。そうしないとこの映画の伝えたいことが無効化されてしまう可能性があるからだ。

作品自体を貫く思想の下支えとしてもこの点はきちんと作られたんだろうし、それを感じ取れるような人物造形だったと思う。

 

 

 

 

ざっと思い出すだけでこのくらい"良さ"のポイントがありました。ストーリー自体も、ずっと何か重大なことが起きそうなワクワク感が継続してて、なのに全然展開の予想がつかなくてすごかった。わざわざ映画館に観に行ってよかったと心底思える映画でした。

ラストもふわっと終わるのかと思ったら、観客に想像の余地を残させない閉じた終わり方で、リアリティがある分救われなかった。監督の思想なんですかね?主人公一家がかわいそうすぎたので、ほのぼのスピンオフ作って〜!というオタクの発想をしてしまう。

 

あと、この映画に影響を与えた系譜にも興味がわいた。調べると度々話題に上がっている『下女(ハウスメイド)』も観たいと思ってます。

ここまでネタバレしといてアレだけど、まだ観たことない人が万が一いたらマジで観てほしいです。

では。